まちなかリボンサロン
ハイブリット形式で開催していましたが、現在はオンラインのみで行っています。

2026年1月10日(土)第168回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第168回まちなかリボンサロンでは、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)について考えてみよう」をテーマに、医療法人秋本クリニック地域医療連携室 薬剤師 笠原庸子先生にご講演いただきました。ACPは日本では「人生会議」とも呼ばれ、人生の最終段階を見据え、自分が大切にしたい価値観や医療・ケアの希望について、前もって周囲と話し合い、共有しておく取り組みです。

 

ACPという言葉から「終末期」や「死」を連想し、重たい話題と感じる方も少なくありません。実際、過去にはACP啓発ポスターが「死を強く想起させる」として議論を呼んだこともありました。しかし笠原先生は、「ACPは決して死を前提にした話ではなく、年齢や病気の有無にかかわらず、すべての大人に関係するものです」と強調されました。

ACPで話し合うのは、延命治療の可否といった医療行為だけではありません。自分がどのような生活を大切にしたいのか、どこで過ごしたいのか、家族や周囲にどのように関わってほしいのかなど、「その人らしい生き方」そのものがテーマになります。また、ACPは一度決めて終わりではなく、健康状態や生活環境の変化に応じて、何度も見直していくことが重要だと説明されました。

 

一方で、日本ではACPが十分に浸透しているとは言えません。その背景として、家族中心の意思決定文化や、はっきり言葉にせず察することを重んじる風土、死に関する話題を避ける傾向などが挙げられました。さらに、医療者自身もACPを実践できていないケースが多く、制度や文化の両面で課題が残っている現状が示されました。

ACPの大きな利点は、いざという時の迷いや不安を減らせることです。突然の病気や事故で自分の意思を伝えられなくなった場合、家族や医療者は「本人ならどうしただろうか」と悩みながら判断を迫られます。ACPを通じて日頃から考えや思いを共有しておくことで、周囲は本人の価値観を手がかりに選択することができ、心理的な負担を軽くすることにつながります。

 

また、本人にとっても「自分の考えを言葉にしておく」ことは、自分の人生を主体的に捉えることにつながります。ACPは、最期の医療を決めるためだけのものではなく、「自分らしい生き方」を周囲と確認し合うための対話であり、今をどう生きるかを考えるきっかけにもなります。

笠原先生は、ACPの本質について「最期の選択を決めることではなく、迷いや不安を減らすための準備です」と語られました。本人が意思を言葉にしておくことで、いざという時に家族や医療者が判断を迫られる負担を軽くすることができます。それは本人にとっても、周囲にとっても大きな支えになります。

 

講演の締めくくりでは、「ACPは特別な場で行うものではなく、日常の会話から始められます。何気ない会話からスタートしてみるのも良いのではないか」「やらないと後悔するというものではなく、『やって見ても良いな』と思ったら、一度手に取ってもらいたい」と呼びかけがありました。人生の最終段階だけでなく、これからの生き方を考えるための対話として、ACPの意義を改めて考える機会となる講演でした。

  

次回、令和8年2月7日(土)の第169回まちなかリボンサロンは、広島大学病院 薬剤部 日本医療薬学会 がん専門薬剤師 櫻下 弘志 先生に、「こころとからだにやさしい漢方のおはなし」をテーマにご講演いただく予定としております。

次回もZoom配信開催となります。ご期待ください。

2025年12月13日(土)第167回まちなかリボンサロン(ハイブリット形式)開催の報告

第167回まちなかリボンサロンでは、数年ぶりのWEB&現地でのハイブリット開催ととなりました。

今回は「乳がん術後の生活習慣について」をテーマに、ゆめみなみ乳腺クリニック院長の尾崎慎治先生より、乳がん治療後の生活をどのように整えることが再発予防や健康維持につながるのか、最新のエビデンスを踏まえた解説が行われました。講演では、世界がん研究基金(WCRF)および米国がん研究協会(AICR)の報告や、乳がん診療ガイドラインの知見を基に、運動と食事を中心とした生活習慣のポイントが整理されました。

  

まず、生活習慣と乳がんとの関連について、喫煙・肥満・身体活動が重要な因子であることが示されました。喫煙は、乳がんの再発や死亡リスクを高める可能性が高く、診断後も喫煙を続けた場合にはリスク上昇がほぼ確実とされています。一方、診断後に禁煙した場合は、そのリスクが低下することが報告されており、術後に最も優先すべき生活習慣の改善として「禁煙」が挙げられました。

  

体重管理については、痩せすぎ・肥満のいずれも望ましくないことが強調されました。診断時・診断後ともに肥満は乳がんの再発および死亡リスクを上昇させることが、複数の研究の統合解析から示されています。また、急激な体重減少や大きな体重変動も予後を悪化させる可能性があるため、標準体重を目安に安定した体重を維持することが重要と説明されました。

 

運動については、時間のある人・ない人それぞれに実践可能な方法が紹介されました。定期的な身体活動は、乳がんの再発リスクや死亡リスクを低下させる可能性が高く、週に23エクササイズ(メッツ・時)、あるいは1日8,000~10,000歩程度の歩行が一つの目安とされます。また、まとまった運動時間が確保できない場合でも、階段を使う、速歩で移動する、家事を積極的に行うといった「VILPA(生活の中の短時間・高強度活動)」を積み重ねることで、健康効果が期待できることが紹介されました。

 

食事については、「特定の食品を過度に避ける必要はない」という点が重要なメッセージとして示されました。乳製品の摂取は、適正量であれば乳がんの再発や死亡リスクを上昇させる可能性は低いとされています。ただし、高脂肪乳製品については再発・死亡リスク上昇の報告もあるため、摂り過ぎには注意が必要です。大豆・イソフラボンは、食事からの適量摂取であれば再発リスクを低下させる可能性があり、納豆や豆腐、豆乳などを日常的に取り入れることが推奨されます。

  

一方、サプリメントの高用量摂取については安全性が確立していないため、控えるべきとされました。アルコールについては、適量であれば乳がん予後への悪影響は少ないとされるものの、体調や体質を踏まえた節度ある判断が必要と説明されました。

  

講演のまとめとして尾崎先生は、「乳がん術後の生活で大切なのは、特別なことをするのではなく、禁煙・標準体重の維持・定期的な運動・バランスの良い食事を無理なく続けることです」と述べられました。治療後の生活習慣を整えることは、再発予防だけでなく、心身の健康を保ち、自分らしい生活を続けるための大切な基盤となることが、わかりやすく示された講演でした。

次回、令和8年1月10日(土)の第169回まちなかリボンサロンは、「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)について考えてみよう」をテーマに、医療法人秋本クリニック地域医療連携室 薬剤師 笠原庸子先生にご講演いただきます。

次回はZoom配信開催となります。ご期待ください。

2025年11月1日(土)第166回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第166回まちなかリボンサロンは、島根大学医学部附属病院乳腺センターの角舎学行先生をお迎えし、「乳がんの化学療法について ~周術期編~」をテーマにご講演いただきました。

角舎先生の講演では、乳がんの薬物療法の中でも「術前・術後の化学療法(手術期の治療)」に焦点を当て、サブタイプ別の治療戦略、薬の組み合わせ、近年の治療方針の変化などについて詳しく解説されました。

  

乳がんは、下記のように大きく4つに分類され、「ホルモン受容体陽性(ルミナル型)」「HER2陽性」「トリプルネガティブ」の3つを中心にサブタイプ分類が行われ、それぞれで治療方針が大きく異なり、治療の目的や意義を説明されました。

  1. トリプルネガティブ(HR陰性・HER2陰性)
  2. ルミナル(HR陽性・HER2陰性)
  3. HER2陽性(HR陰性・HER2陽性)
  4. 両方陽性(HR陽性・HER2陽性)
  • HER2陽性:化学療法+抗HER2療法(ハーセプチンなど)が基本
  • トリプルネガティブ:化学療法が中心、症例により免疫療法を併用
  • ルミナル:基本はホルモン療法だが、リスクが高い場合は化学療法を追加

 

HER2陽性乳がんでは、化学療法に加えて抗HER2薬(トラスツズマブなど)を併用することが標準治療となり、高い治療効果が示されています。ホルモン受容体陽性(ルミナル型)の場合はホルモン療法が基本ですが、再発リスクが高い場合には化学療法を追加します。一方、ホルモン療法も分子標的薬も効かないトリプルネガティブ乳がんでは、化学療法が治療の中心となり、適格な患者では免疫療法を併用するケースが増えています。

 

また、薬剤や投与スケジュールによって再発抑制効果と副作用の強さが異なり、「強ければ必ず良いわけではなく、副作用とのバランスが重要」と説明。特にドーズデンス(2週間ごとに投与する強化スケジュール)は効果が高い一方で副作用も強いため、個々の患者の体力や生活と調和させながら選択することが求められます。

  

乳がんの化学療法では、身長と体重から算出される投与量が明確に決められており、治療効果を最大化するためには、規定量を守り、治療間隔を延長させないことが重要です。副作用を恐れて自己判断で治療をスキップしたり、投与量を減らしたりすると、再発抑制効果が下がる可能性があると説明されました。

また、術前化学療法(手術前に行う薬物治療)についても触れられ、HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、術前治療の効果がその後の治療内容を決める大きな判断材料となる一方、ルミナル型では効果が予後と必ずしも一致しないなど、サブタイプによる違いについても解説されました。

  

講演の最後に角舎先生は、「乳がんの化学療法には確立されたセオリーがあり、医療者と患者が治療の目的を共有し、必要な治療をきちんとやり遂げることが大切」と述べられました。医学的根拠に基づいた詳細な解説は参加者からも「治療の全体像がよく理解できた」と好評でした。

乳がん治療はますます進歩を続けています。正しい知識と医療者との協働が、より安心した治療につながることを実感できる講演となりました。

次回、令和7年12月13日(土)の第167回まちなかリボンサロンは、ゆめみなみ乳腺クリニック院長尾崎 慎治先生に、「乳がん術後の生活習慣について 」をテーマにご講演いただく予定としております。

次回は現地開催&Zoom配信のハイブリット開催です。ご期待ください。

2025年10月4日(土)第165回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第165回まちなかリボンサロンは、広島大学病院 看護部の山口眞由美先生をお迎えし、「乳がんと生活 ~自分らしく生きる~」をテーマにご講演いただきました。医療現場で多くの患者さんと関わってこられたご経験から、がんと向き合う患者さんが感じる悩みや不安、日々の生活の中で大切にしてほしいことなどを、お話しいただきました。

  

講演は、がんの診断や治療を受けた際に、多くの方が感じる「自分はどうなるのか」「誰に相談すればよいのか」という悩みから始まりました。がんの治療には身体的負担だけでなく、精神的・社会的負担も伴います。例えば、脱毛や手術による見た目の変化、経済的な不安、職場復帰への迷いなど、患者さんの抱える困難は多岐にわたります。

現在、日本ではがんの罹患率・死亡率ともに上昇傾向にあります。女性のがんの中でも乳がんは特に多く、早期発見・早期治療の重要性が増しています。講演では、統計データを交えながら、がんとの向き合い方や、医療だけでなく生活全体を支える視点の大切さが紹介されました。

 

「がんサバイバーシップ」という考え方についても触れられました。がんと診断された時から、治療中・治療後の生活までを含めて、患者が自分らしく生きていく過程を支援するという考え方です。その中で、自分の気持ちや状況を整理し、自ら意思決定を行っていく「自己擁護(セルフアドボカシー)」の力を育むことが大切であるとされました。

 

講演では、患者さんが自分の意思を表明し、必要な支援を得るためのスキルとして、以下のようなポイントが紹介されました。

  • コミュニケーション:不安や希望を言葉にして伝えること

  • 情報探求:信頼できる情報源から必要な情報を得る

  • 意思決定:複数の選択肢から、自分に合った選択をする

  • 問題解決:困難に直面したときに、どう対処するかを考える

  • 自分の権利主張:医療者や周囲の人に対して自分のニーズを伝える

その一環として「オタワ意思決定支援ガイド」も紹介され、意思決定のサポートツールとしての活用が勧められました。

また、治療による外見の変化にどう向き合うかという点にも焦点が当てられました。たとえば脱毛後の頭皮ケアやスキンケアを続けることは、心の安定にもつながります。講師の山口先生は、「外見のケアは単なる美容ではなく、自分自身を大切にする時間である」と強調されました。

 

最後に、「私らしく生きる」ためには、病気とともに歩む生活の中で、自分の価値観や生き方を見つめ直し、周囲の支援を上手に活用しながら、自分のペースで生活を築いていくことが大切であるというメッセージが伝えられました。

多くの実践的な知恵と励ましが詰まったご講演でした。参加者の皆様からは、「自分の不安が整理できた」「これからの生活のヒントをもらえた」といった声が多く聞かれました。

山口先生、貴重なお話を本当にありがとうございました。

次回、令和7年11月1日(土)の第166回まちなかリボンサロンは、島根大学医学部付属病院 乳腺センター 角舎 学行 先生に、「乳がんと生活 ~自分らしく生きる~ 」をテーマにご講演いただく予定としております。詳細が決まり次第、改めてホームページ上でお知らせいたします。

2025年9月6日(土)第164回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第164回まちなかリボンサロンでは、東京医科大学病院 栄養管理科 管理栄養士の丸山佳純先生を講師に迎え、「乳がんと向き合う食事〜あなたの体を支える栄養の力〜」と題した講演が行われました。治療に伴う体重の変化や食欲不振など、多くの患者さんが抱える悩みに対して、科学的な知見と日常に取り入れやすい工夫を交えて解説いただきました。

 

がん患者さんの半数は診断時点で既に体重が減少しており、治療が進むと8割以上の方が体重減少を経験するとされています。体重減少の要因には、治療や副作用により「食べられないために痩せる場合」と、炎症や代謝異常によって「食べても痩せてしまう場合(悪液質)」の2つがあります。

悪液質では、体内の炎症性サイトカインが筋肉や脂肪の分解を促進し、肝機能の低下や食欲の減退も引き起こします。その結果、免疫力や体力の低下、感染症や治療合併症のリスク増加につながり、生活の質(QOL)にも影響します。丸山先生は「栄養状態と筋肉量を維持することが、治療を続けるために極めて重要です」と強調されました。

筋肉量をチェックする簡単な方法として「ふくらはぎを指で囲む」「片足で椅子から立ち上がる」といったセルフチェックも紹介されました。

 

治療中に特に意識したいのは、エネルギーとタンパク質のバランスです。
さらに、次の栄養素を積極的に取り入れることが勧められました。

  • EPA(青魚):炎症を抑え、筋肉維持や免疫力の向上に期待
  • BCAA(肉・卵・大豆製品など):筋肉合成を助ける
  • カルニチン(ラム肉・牛肉など):エネルギー産生や倦怠感改善に有効

また、「主食・主菜・副菜」をそろえることで自然と栄養バランスが整うとのこと。忙しい時でも、コンビニのサラダチキンやパックご飯、野菜サラダを組み合わせるなど、工夫次第で簡単に実践できると紹介されました。

 

治療中はさまざまな症状で食事が難しくなることがあります。丸山先生は、症状ごとに工夫できるポイントを具体的に挙げられました。

  • 食欲がない時:三食にこだわらず、少量・好みのものを。リゾットやサンドイッチなど主食+主菜を一度に摂れるメニューが効果的。
  • 吐き気がある時:冷たい料理や匂いの少ないものを選ぶ。
  • 口内炎の時:柔らかく滑らかな料理にし、辛味や酸味は避ける。
  • 味覚障害の時:口腔内を潤す、柑橘類や亜鉛を摂る、味付けを少し濃いめにするなど工夫。
  • 便秘の時:水分補給と野菜・穀類で便のかさを増やす。軽い運動も有効。
  • 下痢の時:水分を十分に摂り、脂肪や食物繊維の多い食品は控える。

 

「治療中は痩せる」と思われがちですが、ホルモン療法やステロイド投与によって体重が増えるケースもあります。肥満は乳がんのリスクを高めることがわかっており、体重管理は再発予防の面でも大切です。

急激なダイエットは筋肉量の減少を招き、免疫力や体力を損ないます。推奨されるのは月1kg程度のゆるやかな減量です。例えば毎日240kcalを食事や運動で調整すれば、1か月で1kg減を目指せます。

  • 食事の工夫:お菓子やアルコールを控える、ご飯を数口減らす
  • 運動:1日30分のウォーキングを継続する
  • 生活習慣の見直し:朝食を抜かない、よく噛んで食べる、遅い夕食を避ける

こうした小さな積み重ねが健康的な体重管理につながるとのことです。

 

丸山先生は最後に「食事は治療を支えるだけでなく、日々の生活を豊かにする力でもあります。無理をせず、できることから始めましょう」と呼びかけられました。

乳がんと向き合う毎日の中で、食事は心と体を支える大切な基盤です。今回の学びをそれぞれの生活に取り入れることで、治療中でも自分らしく前向きに過ごす力になるのではないでしょうか。

次回、令和7年10月4日(土)の第165回まちなかリボンサロンは、広島大学病院 看護部山口 眞由美 先生に、「乳がんと生活 ~自分らしく生きる~ 」をテーマにご講演いただく予定としております。詳細が決まり次第、改めてホームページ上でお知らせいたします。